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コラム

2022年7月8日

生け捕る

 

生け捕る

「生け捕る」とは、景色を切り取り美しく

見せることです。

 

人は見ているものを均等に記憶にとどめている

わけでありません。

「目を引く」という言葉がある通り、美しい風景

でも劇的に遭遇(そうぐう)するのと漫然(まんぜん)

見るのとは、脳への刻まれ方が異なります。

 

建築にもピクチャーウィンドウとういう方法が

あり、部屋の中で「ここに美しいものが欲しい」

という場所に、はめ殺しの窓(FIX窓)を設け、

外の美しい風景を切り取ります。

 

 

外部空間でも同じことができます。

美しい風景の手前を絞り、期待をもたせ、視界が

広がったあとに感動を導く方法や、風景の両側に

樹木を植え強調する方法です。

 

 

①生け捕りとは

眺めのよい場所を利用して庭をつくり借景します。

「生け捕り」はもっとも積極的に見せたくない

ものを隠したり、見せたい景観を強調するため

にフレームをつくる方法です。

 

たとえば、毎朝目が覚めたときに美しい緑の樹を

一日の一番最初にみるというのは、とても気持ち

のよいものです。

(のぞ)かれる心配のない窓で、季節感あふれる

美しい緑を見ることが、どれほど豊かな生活を

提供できるか計り知れません。

 

緑を自分のために「生け捕る」ことは、工夫次第

金額的にもあまり負担をかけずに行えます。

 

漫然(まんぜん)とあいた土地に樹木を植えるのでは

なく、「生け捕り」、「生かす」ことが重要です。

 

 

②生け捕りの方法

1)美しい風景の手前を絞り期待感を出す。

図2-10-2(上)のように、生垣や樹木で景色を

絞り、その向こうに姿のよい山という要素が

ある場合、生垣の向こうの山は他人の所有の

範囲にかかわらず、あたかも自分の庭のよう

に見えます。

 

2)見たいもの以外を隠し、見たいものを強調する。

図2-10-2(下)のように、遠い空間(この場合は海)

と見せたくない手前の空間の間に、緩衝装置

して樹木を配置します。

樹木でフレームがつくられ、海が強調されます。

 

下記の写真は、京都の南禅寺の庭にある石です

が、庭の池とその周辺の色鮮やかなモミジを、

丸くくりぬいた穴から見せています。

 

そこに映し出された世界は、周辺の光景とは

異なり、池とモミジの風景の「生け捕り」、

自分だけのものにする醍醐味を味わせてくれ

ます。

 

源光院の悟り窓

 

 

下記の写真は、アプローチの花壇に植えられた

花を近隣の人の目にもふれるようにするため、

「生け捕り」の方法を用いた門まわりの写真です。

 

門袖の壁で庭を隠し、プライバシーを確保しな

がら美しい花だけを見せることで、訪れる人の

期待感はふくらみます

 

 

 

彰国社  著者:水内真理子

【植物を生かしたエクステリアデザインのポイント】

「2章 植栽計画の基本的な技法

    2-10 植栽による空間演出⑨ 生け捕る  」より