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コラム
2022年6月20日
隠す目的と効果
庭において「隠す」目的、意味は多様です。
見たくないものを隠し、庭をより、美しく
見せるのはもちろんのこと、人間の「視覚」
における錯覚を利用して、意識的に庭の広さ
や奥行きを強調するこもできます。
隠す目的と効果
隣の家の洗濯物、空調の室外機、車の後ろ姿など、
さまざまな見せたくないものが身近にあり、あり
がたくない借景となっていつも見せられています。
それらのものには生活感があり、大きさ、スケール
感をつかみやすいものなので、人はその大きさと
くらべることで実際の庭の大きさを実感させられて
います。
リアルなものの情報が目に入りますと、心から落ち
着いて庭空間に浸ることができません。
しかし、庭の構成を考えるうえで「隠す」という
行為を感じさせるようにすると、かえってそのこと
が協調されてしまい、人の視線を引き付けてしまい
ます。
いかに隠していることを感じさせない隠し方をする
のが大切で、記憶に残らないようにさりげなさが
必要です。
①隠す樹木の選び方
植栽で隠す場合は、生垣や針葉樹で隠します。
冬場でも隠せるように常緑樹を植え、その手前に
花木などを植えるとそちらに目が行くので、気に
とまりにくくなります。
②隠すことと奥行き感の関係
見たくないもの、見せたくないものを隠すという
ことは、単純に存在しなかったことにする効果が
あります。
隠すことで、別の価値を庭に盛り込む効果が
あります。
以下の図は、まったく同じ場面の部分になります。
a)フェンスが見える
庭の向こうにフェンスがあり人が立っています。
b)フェンスを少し囲む
生垣で少し囲い、針葉樹や高木を植えた状態です。
c)完全に隠す
人やフェンスを完全に隠しています。
a~cへとフェンスや人といった、誰でも大きさを
経験的に知っているものの隠していくことで、人は
スケール感を失い、大きさや距離がわからなくなり
ます。
そのことで、距離感を失わせ、結果として奥行きを
感じるようになります。
見ている位置から一番向こうまでの間に障害物
(bのなかでは生垣や高木)を置くと、さらにその
障害物から一番奥までの距離感がつかめず、視点
から生垣まで、生垣から一番奥までと2段階の距離
感を持つことで、混乱し、奥行きを感じていきます。
生垣から一番奥までの間に別の木を植えると
(cでは針葉樹)、奥行きを感じられます。
人は庭に広さを求めますが、実際には面積は限られ
ています。
何か別のものを足すことで、視覚的な広さを手に
入れるほうが有効な場合が多く、それは何本かの
樹木の植栽やトレリスなどの構造物、大きな花鉢を
置くことだけでも予想外の効果が得られます。
彰国社 著者:水内真理子
【植物を生かしたエクステリアデザインのポイント】
「2章 植栽計画の基本的な技法
2-4 植栽による空間演出③ 隠す 」より